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      ぼくはひとり屋上で空を見ていた ――My Gallery

  僕は2000年から絵を描きだしました。前年からドイツに留学し、半年ミュンヘンに暮らし、そこでドイツ表現主義の絵画に数多く触れ、僕も描きたいと思ったのがきっかけ。帰国してすぐ絵筆をとりました。 
 2005年に、30枚の絵をポストカードにして、ポストカードコレクションブック『ぼくはひとり屋上で空を見ていた』(遊タイム出版)を出しました。そのときの表紙の絵がこの僕のホームページのトップページにあるこのギャラリーの扉を飾る絵です。このホームページ・ギャラリーの名前はそこからとりました。

  展示してある絵の画像はデジカメでとった写真をトリミングしてあるので、実物の周辺部分が映ってなかったり、色が露出の関係で少し白く飛んでいる場合もあります。


  松葉杖シリーズ6枚

    2010年5月から左大腿骨骨頭壊死という病名の病にかかり、松葉杖をついて壊死部分への圧迫を回避しながら、骨の成長を待つ自然治癒保全療法を追求中。足が利かなくなった身体状況がモチーフになって絵が6枚生まれました。これが最初に描いた絵。

         松葉杖シリーズ1

   
         松葉杖シリーズ2   
          松葉杖シリーズ3
           松葉杖シリーズ4
           松葉杖シリーズ5
           松葉杖シリーズ6


  奄美シリーズ3枚

  2007年から父祖の地である奄美大島瀬戸内町に入れ込んでいる。民俗学の勉強も始めた。その出会いのインパクトはまず拙著『根の国へ――秀三の奄美語り』(海風社、2008年)を生み出した。次の絵3枚もその表現だ。

        
         ガジュマルと少年
奄美にやってきた!    
    魚市場の阿母

   阿母と書いて「アンマー」と発音。奄美の方言で母のこと。古仁屋の港には小さな魚の競り市場が毎朝6時半から開かれる。

  
  アガメムノンの黄金マスク・シリーズ

  2006年にギリシャを旅した。アテネの路上で絵を売りながらユースホステルに泊まっての旅だ。この時の様子は拙著『いのちを生きる いのちと遊ぶ』(はるか書房、2007年) の「アテネ・ナポリ放浪記――ぼくの路上絵商売」の章に書いた。アテネの考古学博物館の目玉商品はアガメムノンの黄金マスク。その展示コーナーに、僕はもっと皺くちゃで、もっとひしゃげたもう一枚の黄金マスクを見つけた。そっちのほうがずっと気に入った。そのマスクからのインパクトで、帰国してすぐ、この4枚を描いた。王を描いたつもりが、描いているうちに女の顔になり、王妃の嘆きのマスクになったりしたのは、自分でも面白かった。

      アガメムノンの黄金マスク1
アガメムノンの黄金マスク2       
   アガメムノンの黄金マスク3
アガメムノンの黄金マスク4    


  ふたりシリーズ

      ふたりシリーズは、別名「エロスシリーズ」か。エロティシズムというテーマは絵を描く欲望にとって
      つねに本質的なテーマの一つだ。

         ピカソ的ふたり     
     フラメンコを踊るふたり        
      夜のふたり
        白いふたり        


    ブエノスアイレスのマリーア
 
  タンゴ・オペレッタ『ブエノスアイレスのマリーア』は作曲をピアソラが担当し、詩はアルゼンチンの名高い詩人ホラチオ・フェレールが担当。メインの歌い手はアメリータ・バルタールであった。僕はこのオペレッタのCDにぞっこんとなり、その結果、シルクスクリーンでそこからのインスピレーションで絵をつくった。シルクスクリーンで刷った絵に、水彩で色をつけた。そして、それをポストカードコレクションブック(遊タイム出版、2005年)に載せる際、一枚一枚を自分の作った短文・詩あるいはまたこのオペレッタからの引用で飾った。そののち、この仕事は朗読劇台本「ブエノスアイレスのマリーア」まで産みだした。

  ブエノスアイレスへ                  

  

 聴いた?
 もちろん。マリーアを歌うアメーリタ・バルターラの声は好き。ダミアのように暗くて強くて退廃的だから。

 娘は生まれた
 神様が酔っていたある日、
 だからその声のなかでは、
 3本のねじれた釘が痛がっていた。
       (タンゴ・オペレッタ『ブエノスアイレスのマリーア』から

 ブルースのようなオマージュ。痛みのオマージュ。
 マリーアは死んで影となってブエノスアイレスの夜をさまよう。ちんけな悪魔はこの影となったマリーアの子宮に神の子種ならぬ、安酒場の精液を送りこむ。女の痛みへのオマージュ。そのことで欲情する男へのいたわりでもあるオペレッタ。

    

 マリーア                     

あんたの声で聴きたい。好きな一節を読んで。   
『ブエノスアイレスのマリーア』から。           

お前の愛が砕け散った今
それもへまな、目のクマ
ジグザグに引いた眉、
お前の顔の暗黒に
燃えるワインの十字架

私が好きなのはこの歌のなかにある廃墟感。

潰されたもの、潰えたものの、まだ風のなかにかすかに鳴っている痛みの叫びみたいなもの。                

    

  

Muder of Love          

       
we are so sad
because we are so poor as to need own enemy.
we must create own enemy.
because we are so poor as to protec ourselves.
日本語で言ってみて。もう一度。

ぼくらはひどく悲しい。自分の敵を必要とするほど心が貧しいから。ぼくらは自分の敵をつくらねばならない。自分を守らねばならないほど心が貧しいから。

汝の敵を愛するほどの愛は私たちには与えられていないのね。


       わたしの娘の瞳のなかに、べつの涙のビートがぶつかり
わたしは歩いてゆく、暗い郷愁のなか、まだ過ぎ去っていないことどもの          路地は娘にカードを投げつけた憎しみの傷だらけのイカサマ札。
母親は「ものぐさ」を織っていた
父親は「しくじり」を飼っていた
泥棒部落のブルースの昔ながらのみじめったらしさか
何だか知らぬがわたしのマリーアに与えたカード
それから別の何かを彼女の猫に。
声は鹿の毛の色をした雌馬のそれ、腰も鹿毛の雌馬のそれ
垂れ髪も乳房も、
そいつの背中をどやしつけるのは
20匹の雄の欲望。

『ブエノスアイレスのマリーア』より
 

              欲情する骸骨

酔ったタンゴ

今がそのとき
蛇イチゴのざわめきが
夜を通してお前の沈黙にとどく
このアスファルトの気泡を通して
お前の声を聞かせてくれねばならぬ 
今がそのとき
お前を襲う
夜明けの生ぬるいミサをタンゴにしてしまおうと
だるいコントラアルトの淫らな娼婦の歌を伴奏に
                   

春を売る魔女たちから盗んできて
人生を押し出す嫉妬でつくった
この悲嘆と喜びにみちた町のように。
マリーアは、首くくりの空っぽトランプの
狂った不眠症の一部であった
そのカードは、
負けの決まっている孤独に賭けられたもの、
彼女は、最初のしくじりの扉に立つ、腹立ちまぎれの欲情の詩であった
そして道化師の目に映るバラだった。
(タンゴ・オペレッタ『ブエノスアイレスのマリーア』より

「道化師の目に映るバラだった」、ここは私のとても好きなところ。



バンドネオニスタ
死神とマリーア

運命にあらがう激しいタンゴ、
ミロンガと運命と真実、
往生際の悪い低音を奏でる太い弦が、
おまえを泣くでもなく、おまえを愛するでもなく、おまえの孤独のなかで歌っていた。        『ブエノスアイレスのマリーア』より

 私は女の声のなかに男の響きを聴くのが好き。
それは、女が男のように語るということではないわ。
女が女がもつ威厳や大きさや熱情を表現するためには女の声のなかに男の響きを響かせる必要がある。男より女の方がどんなにか運命に対して
戦闘的かということを示す必要がある。

二つの古傷

愛は嫉妬を産みだしてしまう。愛こそは優しさを産みだすはずのものなのに。でも、愛が嫉妬を産みだすのは、愛が
「負けの決まっている孤独に賭けられたもの」!
すべての優しさをあげよう、だけど私から奪うな、私の愛する者を!
すべての優しさをあげよう、だが、私を憎しみにかえるな!

いつも怯えている
愛は

路地裏のタンゴ


スラム街のアトモスフェアー。なかば廃屋となった家屋。金臭い工場の跡地。錆びた地面に黄色いペンキをぶっかぶって息絶えた雑草。油の浮いたどぶの匂いのする運河。移民労働者。日雇い。あぶれもの。娼婦。アウトサイダーの代名詞としての変質者。逃亡者。隠れ住む者。一切の『まっとうな社会』へのアンチ。よれよれ、継ぎはぎ、イカサマ、インチキ、B級、汚れ、悪とつるんでるって感じ。夜や死の感覚。廃墟の感覚。その都市の路地の形がその人間の内部を流れる血の水路だってこと。現代都市の内臓に巣くってる死の感覚。夜の詩。われわれの都市論。

アンチこそ私は愛する。


右手にピストル、左手に薔薇
 
 
このようにして、おまえの<さようなら>の中にある、
ブエノスアイレスの奥深い場末から、
あっさりとまたぎ越すことのできる生と死のやわな国境をこえて、
おれはおまえの暗い歌をつれてこよう......
神の年齢が刻まれた歌を、
ふたつの古傷が刻まれた歌を、
右手には憎しみ、左手には優しさ。


 絵本  五匹の冒険

            あるところに、動物園がありました。
           その名前は、「ゾウけんきゅう動物園」でした。
           そこには、いろいろなぞうがいました。
           サルゾウは5ひきもいました。
   サルゾウの1ぴきだけがみんなとなかよくできないので、
      飼育係のひとはこまっていました。
       あるひ、そのこまったことがいっぱいあったので、
        飼育係のひとは、夜カギをしめるのをわすれてしまいました。
            そのまにそのゾウはにげてしまいました。
            そのゾウの名前はジュニーです。
             朝がきました。ジュニーは橋をわたろうとしました。
          橋のてすりにウサギがいっぴきとまっていました。
      「やあ、こんにちは。こんなとこでなにしてるんだい。君の名前は?」
      「アニーさ」
      「ぼくはジュニー。冒険にいこうとおもっているんだ」
      「冒険のもくてきは?」
        「なかまと家をさがすため。そこでなかまといっしょに楽しくくらすんだ」
      「そりゃ、いい考えだね」
        「それじゃ、ぼくたちは友達だね

 2ひきはどんどんすすみました。お屋敷がありました。門のまえにリスがたってました。
  「なんでそんなとこにいるんだい?それに名前は?」
  「ファニーさ。ライオンからやっとにげてきたとこなんだ。ひとやすみしてるのさ」
   「ぼくはジュニー」
   「ぼくはアニー、ふたりで冒険してるんだ」
   「家となかまをさがすのが目的だよ」
  ファニーはいいました。「じゃあ、こんばんこのお屋敷にいってみようよ。
   ゆうれいがいっぱいすんでるんだってさ。
    冒険もできるしぼくたちの家になるかもしれないよ」
       「じゃあ、君ももうなかまなんだね」

       夜がきました。
       ファニーがジュニーにいいました。
       「ぼくはこわいから、君の大きなポケットに入ってるよ」
      「こわがりや!お前がさそったくせに」
        とアニーがいいました。
      「そんなこといったら、いじわるになって、きらわれるから」
         とファニーはいいかえしました。
    お屋敷のなかにはもうひとつドアがありました。そのドアをあけると
 「おばけ祭りは、こっち」というかんばんがありました。かんばんはたくさんつづいてました。
       たくさんのきみのわるい音や声がしました。
        空気のなかにゆうれいたちがとけているみたいなのです。
         ファニーがいいました。
    「ぼくのぼうしのさきっぽの笛を6回吹いてみて。そのとき心のなかで強くおもって」
         「なにを」
       「おばけとしゃべれる肉まんと、おばけがみえる目薬をくださいって」
        すると、どこかから肉まんと目薬がでてきました。
     肉まんをたべて目薬をさすと、おばけ語がはなせるようになりましたし、
      おばけが見えました。
       そしておばけたちとあっというまにともだちになってしまいました。
         おばけたちと3びきは毎日遊びました。
           いつも最後は歌いながらお屋敷のなかを行進しました。
         「百のお部屋に一万のすみっこさ
          まだまだあるよ
          いったことのないドアのかげ、天井裏、机の下
           お化け屋敷は冒険屋敷」
          3びきは自分たちが冒険をしてたことをおもいだしました。
          3びきは涙をちょっとこぼしていいました。
         「ながいこといたけど、ぼくたちは冒険にいくよ。君たちのことはわすれないよ」
         おばけたちはポロポロ涙をこぼしたけれど、
         最後には涙をだすのをがまんして、花束やおかしをいっぱいくれました。
          3びきはお屋敷を出発しました。
      お屋敷をでて左におれると、そこになまいきな顔のキツネがいました。
   「ちょいと、そこのへんなゾウとへんなウサギとへんなリス、旅行かい。
    ここには旅行するとこはないよ」
 「旅行なんかじゃないよ。冒険だよ。冒険と旅行はちがうのがわかんないの?君の名前は?」
    「コンチューさ」
     「ウサギのおまえは?」
       「アニーさ。かっこいいだろう」

       「へんだね」
          「リスのおまえは?」
            「ファニー」
       「ドレミファのファのファニーなんてかっこうわるい!」
   「おれの友だちの名前をばかにするなんて、ただじゃおかないぞ。
     ならおれの名前をきいてごらん」
    「じゃあ、あんたの名は?」
    「ジュニー」
     「ジュニーか、わらえなくて、つまらない」
 コンチューはほんとうになまいきでした。でも悪口をいいあってるうちになかまになりました。
      4ひきになりました。どんどん歩いていきました。
     たくさんの山を越えました。
   川を渡りました。
        海のそばをどんどんゆきました。
        海に落ちる大きな真っ赤な夕日も見ました。
        海からのぼる朝日も見ました。
         4ひきはけんかをしても、なかまでした。
          「つめてぇ」、コンチューがいいました。
          雨がふってきたのです。
          「どうしよう。ぬれちゃうよ」
          「そうだ、あそこの木に雨宿りしよう」
          4ひきはさけぶとすぐその木のしたにゆきました。
          雨ははげしくふりつづきました。
          森の方を見ているとあかりが一つつきました。
          家でした。
          4ひきはそこにゆくことにしました。
      「あのー、雨がふってきたので、この家にいれさせてくれませんか?」
        「いいよ」という女の子の声がしました。
        その子はウサギでした。
        アニーがききました。「名前は?」
         「マリーだわ。あったかいスープをどうぞ」
            マリーは4ひきをあったかいベッドにもぐらせてくれました。
              おなかの中も、おなかの外もぬくいぬくい
                    ぐっすりねむりました。
        つぎの日の朝はすっかりいいお天気になりました。
            マリーがききました。
             「旅行してるの?」
           コンチューがこたえました。
            「なかまと家をさがすために冒険してるのさ」
           すると、ジュニーとアニーとファニーはおこっていっせいにいいました。
           「なかまになったばかりのくせに。えらそうにいうな。それをいうのはぼくだぞ!
       マリーはいいました。
        「ここにずっといるんでしょ?」
      「ずっといたいけど、ずっといたら冒険ができなくなっちゃう」とジュニーがいいました。
        「なかまも家もみつかったんでしょ?」とまたマリーがききました。
        「なかまも家もみつかったけど冒険がなくなっちゃうのはこまるね」
           とアニーがいいました。
    「冒険がなくなっちゃうとぼくたちはなかまじゃなくなっちゃうかもしれない」
     とファニーがいいました。
      「じゃあマリーもはいって5ひきで出発したら」とコンチューガいいました。
        マリーはいいました。
         「もちろんいいよ。あたらしい家さがしは素敵だし、なかまも冒険も素敵だわ」
           5ひきになりました。



   詩画集  

           ぼくはひとり屋上で空を見ていた


  ぼくはひとり屋上で空を見ていた

  ほら
   やるよ
   ポケットから掴みだしたガラス玉
   天にかざし
   君は空を覗く

   君はどこにいった
   ぼくだけがここにいる
                 


縁側            

風に吹かれて寝ころがった  

ざわめけ垣根  
あかんぼの春の緑 を  
さしだした黒く茂る緑  
首をそっと指先で ねじる  
芯だけをのこして  
やわらかな頭が  
はずれた!  

夏の 昼寝する風の 横腹を  
盗人のように  
走る 影  
銀と緑と紫のナイフ  

はやく死ね! しっぽ!  

若い父親がつくった  
小さな池  
雨にあふれ 太陽にわれる  
白いぼくのくぼみ  
秋の日曜日  

冬の朝  
水晶の林が  
土の黒い帽子をかぶり  
大寺院 回廊 宮殿  
出現する都市  

おお お前は残酷なゴムの長靴になって  
ゴーレムとなって  
破壊と死となって  
水晶のかけらをまきちらす
  
 


  庭

  金魚を
  バケツから土へ横たえ
  三輪車でひいてやった!
  ぼくの庭のなかで

    なぜ?
    墓をつくるためさ
    墓を?
    庭がぼくの庭になるためさ

  バラバラにされたこおろぎ
  羽をもがれた
  モンシロチョウ カラスアゲハ キアゲハ
  トカゲの頭を石でつぶすのは

    勇気がいったぜ!

  手のひらに残った
  金魚のにおい
  うろこ
  ねばねば

    殺したことの証拠?
    そう
    生き物の証拠
    お前が

  ぼくのなかの母の声
  庭のなかの母の声



  人形劇場

   ピアノのおおいのように重い
   ひとりだけの王
   さかさまの井戸から
   落ちてきた
   黒い落下傘

   鉛筆のような道化師が
   錐のように何人も降ってきて
   歌う
   運河の歌
   別れのシャンソン

   お母さん 黒い王なんだね
  
   そう、黒をしたがえた王よ




   待つ女

    空気は
    透明に燃え
    夏の大通りには人影は絶えて

    ぼくは
    ひとり
    犬のように
    太陽をかついで歩いていた
    反対側を
    
    長い階段のある神社の
    入り口に
    日傘をさした
    女がひとり

      「待っている人間を見た!」

    ぼくは
    まだ
    待つ人間をもたなかった




   ぶらぶらあるき

    秋の田んぼで
     農夫が
     竹筒のなかのカーバイドに水を注ぎ
     不愛想に
     擦ったマッチを投げ込む

     爆ぜて
     天に四散する
     スズメ
     ムクドリ
     オナガ
     カラス

     ぼくは教えてやった
     妹に
     まだ教える奴がほかにいなかったから
     この今朝の発見を

     二人には
     まだ友達がいなかったから
     《引っ越してきたんだ!》
     
     カーバイド砲を見にいった
     二人で
     拾った枝を
     鞭にして
     草 枝 葉 をひっぱたき
     進んだ
     秋

     兄妹のかわりに
     友達になった
       《じゃあ カーバイド砲を最後の砲手となろうか
        もし
        どっちかが撃てなくなったら》



    川のある街

   川だけは迷うことはない
    (迷うことが怖いのか?)

   川だけはぼくを励ました
    (戻ってこれるからだろう?)

   へとへとになっても
   夜がとっぷり暮れてしまっても
   泣きそうになっても

    (川を戻れば帰れる)

    だから、
    ずんずん進んでいった
    自分の町を抜けて
    見知らぬ風景のなかへ

    おお 夢のような黒い街!
    作業服の街
    油と金属の臭いの街
    煙の空
    三角洲
    川は
    海の臭いすらまじった黒い河となって!
    船さえ浮かべる河となって!
    橋は橋を重ね
    怪獣ラドンのように
    鉄の羽を広げ
    見上げるぼくの
    頭上を
    おおう

    桜並木の
    あの晴れやかな
    ぼくの街の
    優しい
    川を
    後に

     川を戻れば帰れる!
     川をゆけば抜けでる!



マルコ                 

  フェリーニ!   
 アマルコルド!   
リコルダル ミ ! remember    
《知っているよ マルコ!》    
「私は思い出す」    

海沿いの村の空     
季節はずれの灰青色の貴婦人     
たおやかに     
たった一羽     
飛んでくる     

誰かが見つけて 叫んだ     
《誰が?》             
       村に一件の居酒屋、村に一軒の床屋、村に一軒の葬儀屋、    
村に独りの駐在、村に一人の神父、村に一人の教師、    
村に一人の詐欺師      
そんな誰か      
《ああ そこでは誰もが 村に一人の誰かなんだよ!》         

ほら 子どもが飛行船を見つけたときのようにだよ      
あそこ!                               
村中の人間が       
情事に励んでいた二人も       
窓をあけて       
阿呆の口をあけて       
真底美しいものを見た口になって       
アマルコルド!                  
《リコルダル ミ !》             

   夏のボローニャ の       
マルコ       
聖ステファン教会横の回廊に       
自転車一台にいくつもの袋をぶらさげ       
独り住んでいる       
ミオ アミーゴ!  my friend        

クェルケ ヴォルタ ドーヴェ リコルダル ミ        
ケ ドーヴェ リコルダーレ                   
《時に私は思い出さねばならなぬ             
思い出すべきことを》            

君の        
教えてくれたイタリアの言葉        

          *監督フェリーニの映画に『アマルコルド』というのがある     
    

     紙飛行機

   風が
   吹き出した
   夕方が
   運ばれてくるぞ!

    紙飛行機

   細身の
   さかさまこうもり傘となって
   影が
   向こう側をつかまえた!
   だから、
   急げ

     光の粒に
     金がまじり
     金に
     紅がにじみ
     紅に
     濃紺が隠れ
     濃紺は
     墨の封をとかす

   だから、
   アパートの屋上へ
   夜の墨が封を切るまえに
   そこから

   燃える街へ
   やってくる夜にむかって
   紅と
   群青の
   あわいへと

     紙飛行機!